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食の新潟国際賞

受賞者紹介

受賞者ご紹介
本賞/モンティ・パトリック・ジョーンズ氏(Monty Patrick Jones)
アフリカ農業研究フォーラム事務局長/シエラレオネ

 1951年シエラレオネ生。アフリカ農業研究フォーラム(FARA)事務局長。
 74年、ンジャラ大学農学部卒業。83年、バーミンガム大学博士号(植物生物学)取得。75年、国立農業研究所でキャリアスタート。88年国際熱帯農業研究所(IITA)を経て91年から西アフリカ稲作開発協会(WARDA。現アフリカライスセンター)でネリカ品種開発チームを指揮。2002年FARA創設時より現職。
 専門分野はアフリカ農業調査指導。アフリカ発展のための戦略的連携づくり。
 アフリカ緑の革命(AGRA)理事、農業研究に関するグローバルフォーラム(GFAR)議長、アフリカ稲作振興のための共同体(CARD)運営委員会共同議長(2010年)その他、氏の高度なリーダーシップは多方面で高く評価されている。
 第三世界科学アカデミー会員。2004年世界食糧賞共同受賞。

 シエラレオネ(アフリカ)のモンティ・ジョーンズ博士は、1991年から2002年にかけアフリカ稲センター(WARDA)において多数の稲研究プログラムに貢献した。特に、バイオテクノロジーを駆使し、従来困難と思われていたアフリカ稲とアジア稲の種間交雑に成功し、“奇跡の米”と呼ばれるネリカ品種を誕生させた。

 アフリカでの稲作は、ほとんどが畑作での栽培や雨水を利用した限られた農地での栽培であった。この栽培方法では、乾燥、雑草などに対して強いアフリカ稲でないと育たなかったが、アフリカ稲は収穫量が少なく人口増加による食糧不足の問題や、米を輸入に頼らざるを得ない一つの要因となっていた。

 この状況を大きく改善したのがネリカ品種であった。ネリカ品種はアジア稲の高収量性、アフリカ稲の短い生育期間、アフリカの厳しい環境への抵抗性といった両品種の優位な特徴を有している。アフリカの稲作農家の生産性を向上させるポテンシャルを持つネリカ品種の誕生は世界的に注目を集め、アフリカ各地の気候や土壌条件に適合したネリカ品種のさらなる研究と普及が各国に広がることとなった。

 現在、ネリカ品種は30カ国以上で栽培試験が行われ、2003年以降、ギニア、ナイジェリア、コートジボワール、ベナン、ルワンダ、ウガンダなどの国々で25万ヘクタール以上栽培されている。ネリカ品種は、農家収入の増加や食糧生産の向上だけでなく、食糧の需要を確保するために行ってきた米の輸入に対する外貨支出を大幅に削減させ、国全体の経済の安定化にも寄与した。

 現在、アフリカ農業研究フォーラム(FARA)の事務局長を務めるジョーンズ博士は、アフリカの米生産量を10年間で倍増することを目的とし、ネリカの普及を公的機関、民間企業、国際開発機関と連携して取り組んでいる。FARAが策定し,2006年に各国政府が承認した「アフリカ農業生産性の枠組み(FAAP)」はジョーンズ博士が中心を担った。

 また、ジョーンズ博士が自ら議長を務める、「農業研究に関するグローバルフォーラム」をはじめとした多くの国際プロジェクトにおいて もアフリカ全体を代表する存在として重要な役割を担い、アフリカ緑の革命の推進など多岐に渡るアフリカ開発の活動も高く評価されている。この結果、同氏は 2007年にタイム誌の「世界に最も影響を与えた100人」の1人に選ばれている。

佐野藤三郎特別賞/袁 隆平 氏(ユアン・ロンピン)
中国国家雑交水稲作業技術センター主任/中国

 1930年北京市生。国家雑交水稲作業技術センター主任。湖南雑交水稲研究センター主任。
 53年西南農業大学卒業後、湖南省安江農業校の植物遺伝育種学の教師として新品種研究に従事。64年にハイブリット米の研究に着手。76年には商業生産用のハイブリット種米を出荷。「ハイブリット米の父」と尊敬される業績の土台を形成した。
 96年に始まった中国農業省のスーパーライス交配計画でも主導的な役割を果たし、現在2012年までの第三次目標達成を指導している。
湖南農業大学・金華大学・武漢大学各教授。香港大学名誉教授。
 湖南農業学会会長他所属学会多数。2006年には中国農業分野で初のアメリカ科学アカデミー会員に選出された。
 世界食糧賞(’04年)、金の鎌賞(‘04年)、ウルフ賞(‘04年)、「世界に影響を与えた華人終身業績賞(‘08年)、一等農業褒章(‘10年)など、1981年以後世界から21の賞を授与されている。

 袁隆平氏は、中国におけるハイブリット米研究の創始者であり、異種交配による品種改良でハイブリット米を育成した世界的第一人者。世界では、ハイブリット米を中国の4大発明に次ぐ大発明と称賛する声もある。

 袁氏が開発したハイブリット米は、人口増加による食糧需要の増加と、都市化・砂漠化等による耕地減少に伴う食糧供給の減少などを要因とする「世界の食糧問題」を大幅に改善するものとなった。

 ハイブリット米誕生の背景には、1960年代はじめの中国で、飢えに苦しむ人々の存在があった。この飢えに苦しむ状況を目の当たりにした袁氏は、水稲こそが人々の命を救う食糧だと考えるようになる。そんなとき、通常よりもよく育った稲を見付けたことが研究のきっかけとなった。この稲が異品種間の雑種であることに気付いた袁氏は、9年の苦闘の末、1973年にハイブリット米の開発を成功させた。

 このハイブリッド米は、それまでの「優秀とされていた米」に対して、20%の収量増加をもたらしたため、その作付地域は急速に拡大した。

 袁氏は、開発当初の成功に満足することなく、国家のキープロジェクトを指導する主任研究員となり、多くの試行錯誤の末、1995年ついに新たなハイブリッド米の理論と技術の開発に成功した。これにより、それまでのハイブリッド米に比べ、さらなる収量増加と品質の向上を実現した。

 1980年代から、日本を含む多くの国々がさらなる高収穫化を求めて動き出したが、中国でも1996年にスーパーライス交配計画を始めた。

 これは二段階の目標設定で、第一段階は2000年までにヘクタール当たり8.5トンの収穫を10.5トンにすること、第二段階は2001年から2005年の間に12トンにするというものであった。
この計画は袁氏が進めることとなり、袁氏のチームは袁氏の作成したロードマップに従って新たな品種を開発し、第1段階目標を2000年に、そして第二段階目標を2004年に達成した。最近、第三段階の目標を設定し、2012年までにヘクタール当たり13.5トンを達成すべく奮闘している。

 近年では、ハイブリット米は中国で生産される米の約60%を占め、7,000万人分の食糧増産となっている。また、袁氏は、中国国内だけでなく国際稲研究所(IRRI)や国連食糧農業機関(FAO)を通じて、アメリカを含む多くの国々や国際機関に対してハイブリット米を指導し、2,000人以上の研究者を育成してきた。近年では、ベトナムやフィリピン、バングラデシュ、インドネシア、パキスタン、エジプト、アメリカなどでも作付けされており、各国において食の供給の改善に大きな役割を果たすことによって、安全保障という観点からも世界に貢献している。

21世紀希望賞/藤森 文啓 氏(ふじもり・ふみひろ)
東京家政大学家政学部環境教育学科准教授/日本

 1965年生。東京家政大学家政学部准教授。
 90年日本大学農獣医学部農学科卒業。92年日本大学大学院農学研究課農学専攻修士課程修了。同年以降、日本ロシェ(株)、理化学研究所で研究活動に従事。2004年4月、東京家政大学家政学部環境情報学科助教授に就任。現在、同大学家政学部環境教育学科生物工学研究室准教授。キノコの遺伝子解析研究、キノコ由来の二次代謝物の抗がん活性研究などキノコ研究に打ち込む。
 東京理科大学勤務の01年、学位を取得。論文多数。共著多数。近著に「室内環境学概論」(室内環境学会編)。
 日本分子生物学会及び日本農芸化学会所属。
 趣味はバラ。中でもサントゥールロワイヤルという品種の香りが最高だという。
 信条は、「希望ではなく、願望で突き進む。」
 千葉県船橋市在住。

 東京家政大学准教授・藤森文啓氏は、ゲノム科学を専門とする研究者である。

 藤森氏は、「雪国まいたけ」と玉川大学関連ベンチャー「ハイファジェネシス」との共同で、マイタケ、エリンギ、ブナシメジ、シイタケ、マツタケの遺伝子解析をし、そのデータベースを構築した。

 従来、キノコの品種開発や効能は、試行錯誤や経験、伝承的なものによるところが大きく、そのため、産業や健康応用などの利用において科学的検証がなく、研究・開発が遅れていた。このことから、キノコ遺伝子データベースの構築は、これからの発展につながる研究として期待できる。

 キノコ栽培では、味や食感などの優れた品種の開発に数年から数十年の期間が必要である。それが、味や食感などの遺伝子を特定することにより、開発期間を大幅に短縮し消費者ニーズへのスピーディな対応や一株当たりの収量増などの生産性向上、さらに人工栽培できないマツタケやトリュフなどの成長メカニズムを解明することにより、人工栽培化の確立の可能性がある。

 また、キノコの主成分グルカンには、がん化細胞に対し成長阻害効果があるとされているが、科学的な解明がなく薬効が特定できていない。

 この効果を遺伝子レベルで検証することにより、その効果についての科学的知見を得ることができ、薬効の特定ができると考えられている。

 このほか、キノコの遺伝子データベースが、キノコ産業以外の研究においても活用されることが期待される。
 
 人間の細胞膜の一部には、脂質ラフトと呼ばれる構造があり、ここを入口としてウィルスの細胞への侵入・感染や、栄養、情報伝達が行われるといわれている。藤森氏等は、理化学研究所との共同研究で、この人間の脂質ラフトと特異的に結びつくマイタケの遺伝子を発見した。このマイタケの遺伝子を利用することにより、ウィルスの体内への侵入方法が解明でき、その侵入を防ぐための研究・開発に役立つと考えられる。

 このように、藤森氏等が構築したキノコの遺伝子データベースは、生産性向上、人工栽培化の確立のほか、医学活用に結びつく生体メカニズムの解明など多くの可能性を切り開く礎として評価できる成果である。

理事長挨拶
理事長 古泉 肇

深い感謝と、明日への意志と。
 食の分野に特化した国際賞をつくるため財団を設立して1年余。この間、多くの皆様のご指導やご助力のもとに候補者推薦、選考の作業を進め、このほど第一回受賞者を決定することができました。
 食に関する情報の国際拠点化を通し、地域と世界に貢献したいという私達の願いの第一歩が刻まれたわけです。その成果を皆様と共有し、第二期事業をより高次なレベルでつくることが私達の責務です。
 皆様には深く感謝します。そして未来への強い意志をあらためて確かめたいと思います。

「食の新潟国際賞」受賞候補者の選考について
選考委員長 唐木英明

 食の新潟国際賞受賞候補者の募集を行ったところ、予想以上に多数の応募があり、その数は世界15カ国から合計95件に上ったことを大変にうれしく思います。
 多くの候補者の中から、本賞、佐野藤三郎特別賞、21世紀希望賞の各賞につき原則各1名しか採用できないため、選考委員一同大変に慎重かつ真剣な審査と議論を行って候補者を決定しました。

 本賞については、世界各国から推薦された44件の候補者について選考委員が書類審査により評価を行いました。その結果を持ち寄って選考委員会において協議を行い、高得点者に順位をつけて理事会に推薦しました。

 佐野藤三郎賞については、世界各国から推薦された16件の候補者について同様の選考を行い、高得点者に順位をつけて理事会に推薦しました。

 21世紀希望賞については、18件の候補者はすべて国内からでしたが、同様の選考を行い、高得点者に順位をつけて理事会に推薦しました。

 候補者の提示を受けた理事会はその内容について審議を行い、受賞者の決定を行いました。

 優秀な候補者をご推薦いただいた多くの関係者、そしてご多忙の中をご審査いただいた選考委員の皆様に心から感謝の意を表します。

選考委員会
唐木 英明 日本学術会議副会長
木村 修一 昭和女子大学大学院特任教授
生源寺 眞一 東京大学農学部長
猪口 孝 新潟県立大学学長
平山 征夫 新潟国際情報大学学長
山口 寛治 奥野総合法律事務所特別顧問
柴田 明夫 丸紅経済研究所代表
山野井 昭雄 味の素株式会社顧問
小出 五郎 日本科学技術ジャーナリスト会議前会長
今野 正義 日本食糧新聞社代表取締役社長
松原 博 株式会社日本農業新聞 代表取締役社長