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食の新潟国際賞

受賞者メッセージ

受賞の言葉
本賞: 岩永 勝 氏
国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター(JIRCAS) 理事長 /
国際トウモロコシ・コムギ改良センター(CIMMYT) 元所長 (日本)

 今回食の新潟国際賞という名誉ある賞をいただくことに本当に嬉しく思います。
 この道に進んだきっかけは、ある日読んだ新聞記事です。
 1970年、私が大学1年生の時に読んだ新聞記事に感激しました。皆さんご存知の通り、農学の分野にはノーベル賞というのはありません。ところが1970年に農学研究者がノーベル平和賞を受賞しました。アメリカ人の小麦の品種改良の専門家でノーマン・ボーローグという方が国際トウモロコシ・コムギ改良センター(CIMMYT)で小麦の品種改良を行い、それが成果を上げて「緑の革命」と言われるようになり、多くの人を飢餓から救ったことでノーベル平和賞を受賞しました。その記事を読んだ時、非常に感激しまして、私も「品種改良という技術を身につければ世の中に貢献できるんだ」と思うようになり、そしてまた、ボーローグ氏と同じように国際研究機関で働いてみたいと思うようになり、大学、大学院でその道に添って研究を進めました。その後、希望通り30年近くに渡って国際農業研究機関で働くことができました。
 受賞の対象となった私の業績としては多分二つあるかと思います。一つは品種改良あるいは生物多様性の専門家としての仕事。これは30代、40代の頃だと思います。そしてそれからもう一つが組織運営、あるいは国際開発全体を見渡した中での活躍だったのではないかと思います。
 特に私が本当に憧れた国際とうもろこし・小麦改良センターの所長に公募で選ばれて、そしてその6年間の任期の中で、いくつかの大きな業績を上げることができたのが評価されたのではないかと思います。
 今後の豊富ですが、現在働いている所はとても良い所です。日本の農学研究の力を国際貢献に使っていくことをミッションにしている研究機関です。今後もその組織のトップとして仕事をしていきたいと思っております。

佐野藤三郎特別賞: 増本 隆夫 氏
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(NARO)
    農村工学研究部門 地域資源工学研究領域 領域長 (日本)

 今回、食の新潟国際賞佐野藤三郎特別賞を受賞いたし、誠に光栄に存じております。この喜びは所属しております研究機関の農研機構の先輩、同僚、さらに後輩たちに伝えたいと思います。また、私をこの研究分野に導いてくれました大学の恩師に、加えて陰ながら支えてくれた家族にも感謝の念を示します。同時に審査頂いた選考委員の方々にも御礼を申し上げます。
 これまでの研究活動のどこが評価されたかを私なりに考えますと、二点あると思っております。一つは国際貢献、すなわち研究成果の国際展開であります。もう一つは地域への貢献ということです。
 一つ目の活動の国際貢献でありますが、これまでの研究を一言でまとめますと、「風土に適合した持続的水田水利用方式の提案と国際展開」ということになります。特徴的なモンスーンアジアの農業水利用を全世界に伝えようとした活動です。
 もう一つの地域貢献については、具体的にお示しします。20年前になりますが、低平地域の排水問題の一部として開発していました「知識情報を用いた出水予測法」は、故佐野藤三郎氏が理事長を務めておられました亀田郷土地改良区の排水施設管理に実際に利用され、そしてまたその後改良されたという経緯があります。  更に新潟県の西蒲原地区は広大な農業地帯ですが、機械排水管理費に関する課題、いわゆる都市化のために農業と都市が共存しているために農地側と都市側の間で排水機場の管理費の負担問題がある中、問題解決のための基礎的情報を出してきたこと、すなわち費用分担問題に対して具体的な根拠を示すことが出来たことは大きな地域貢献に繋がったと考えております。
 最後に、今回の受賞を期にした今後の展開と豊富です。これまで開発してきました水循環モデルは、まず日本の新潟県の関川流域や現在住んでおります地域を含む利根川流域等に適用してまいりました。そして次に日本全国の336流域全てに適用しました。それをさらに対象を広げてメコン川流域内の中国、タイ、カンボジア、ラオス、ベトナム等に展開しました。これまでは水田稲作やそこでの水利用を研究対象の中心としてきたわけですが、今後は、モデルを畑地農業が主体となっているヨーロッパ、北米、南米等を含む全世界に適用拡大していきながら、世界の農業水資源の今後を検討し、ひいてはそれを持って人類の生活向上へ繋がる活動ができれば幸いと思っております。

佐野藤三郎特別賞: マーシー・ニコル・ワイルダー 氏
国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター(JIRCAS) 水産領域 主任研究員 (アメリカ)

 この度は栄誉ある佐野藤三郎特別賞を受賞することができ、大変光栄に存じます。
 近年エビ養殖業が世界的に大きな産業となっており、その市場価値が伸びております。しかし集約的なエビ養殖の拡大に伴い、東南アジアでのマングローブ林の破壊、海洋汚染といった環境問題が発生し、また、エビの病気を防ぐために抗生物質など、不適切な試薬投入などが行われていることが現状であります。このようにエビ養殖が生産国にとって重要な収入源になっているものの、その産業自体が不安定で問題を抱えていることは事実です。そこでは持続的である科学的な養殖技術が必要であると考え、研究室のレベルから現場に至るまで持続的なエビ養殖の技術開発をライフワークとして取り組んで来ております。
 エビのホルモンの働きを解明することで、養殖現場においてエビの成長を促したり、人為的に卵を産卵させたりすることが可能であると考えており、このような基礎研究を進めながら貧困稲作農家のために、稲作と並行する淡水エビ養殖の種苗生産技術開発をしました。その後、ハイテクで環境への影響を最小限に抑えた養殖システムを実現するために、民間企業と連係して技術開発を進めました。その結果世界初の屋内型エビ生産システムの設立に至り、2007年9月より、新潟県妙高市にて薬剤を一切使用せず、淡水に近い条件で海水エビの商業的生産を開始しました。海外に置いても注目を集め、昨年モンゴルでエビプラントが設置されました。
 現在、発展途上地域ではエビ養殖によって多くの人が生計を立てております。この人たちのためにも、安全安心で環境にやさしい持続的なエビ養殖生産方法を提供する必要があります。今回の受賞はその意味では大きな奨励となり、その目的に向かって更なる努力をしていきたい所存です。
 今後の研究活動の中で、国内外において、屋内外でエビ生産システムの更なる普及を計ることと、まだ不明の多いエビの生殖機構を解明し、安定した種苗生産技術を開発することを目標として尽力していきたいと思います。そして微力ながら、次世代の研究者を育てながら研究開発を通じて社会貢献を実現できることを伝えていきたいと存じます。
 最後に本日の賞に至るまで御支援、御協力いただきました全ての方に改めて感謝を申し上げまして、受賞の言葉といたします。

21世紀希望賞: 宇賀 優作 氏
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(NARO)
    次世代作物開発研究センター 基盤研究領域 育種素材開発ユニット 上級研究員 (日本)

 今回このような栄えある賞を受賞することが決まったと連絡を受けまして、非常に嬉しく思っております。この賞を受賞するにあたり、私の恩師であった奥野員敏先生の推薦、また賞の選考にあたってご尽力された関係各位の皆さま、また私の研究を陰で支えてくれた研究スタッフ、家族、みなさまにこの場を借りて厚く御礼を申し上げたいと思います。
 私の研究は、一言で言ってしまえば稲の品種改良なのですが、あまりみなさんに馴染みのない干ばつに強い稲を作るということを目指してやって参りました。日本にいますと、イネの栽培といえば綺麗な美田をイメージされると思います。新潟の場合、昔は低地で大変だったという事を聞いて驚いておりますが、海外に目を向けますと、灌漑施設が無い雨水に頼った天水田が広がっています。昨年はタイで20年に一度の大干ばつが起こり、多くの農家の方が苦労されたと聞いています。実際、日本の稲作面積の約14倍の面積が干ばつの影響を受ける水田であると言われています。このような地域で稲作をしている農家の方が、安心して稲の栽培ができることを目指して、大学を卒業してから研究所に入って12年以上、この研究を進めてきました。
 私の研究は稲が干ばつでも地面の下にある水を利用できるように、根っこをより深くするという一見地味な研究なのですが、「これまで地道にやってきた研究が評価された」という風に感じています。
 品種改良といってもこれまでの交配法にDNAマーカーという遺伝子の目印を使ったゲノム育種という方法を使っています。このゲノム育種により雨が一ヶ月くらい降らなくても従来の品種よりも2倍から3倍ほど収穫できる干ばつに強い稲を作ったのですが、まだ農家の手元には届いていません。本成果は現時点では基礎研究にとどまっていますが、21世紀希望賞をいただいたからには、こういう成果を途上国の干ばつに苦しんでいる農家の人に届けたいという気持ちでこの先も研究に邁進してまいりたいと思います。