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食の新潟国際賞財団通信

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東京家政大学家政学部環境教育学科
生物工学研究室 准教授 藤森文啓

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第10号 2011/10/01より (PDF/800KB)

「第1回食の新潟国際賞・21世紀希望賞」を受賞して
 藤森 文啓 (東京家政大学家政学部環境教育学科 生物工学研究室 准教授)


  食糧を生産する基幹的な産業を確保するにはどのようなシステムが必要であろうか?自動車や家電品・電子機器は、独自の技術を持つ種々の会社の部品や知識という下支えによって最終製品となり世に送り出される基幹産業の代表品目である。

  では、バイオ技術が支える基幹産業は何か?製薬会社などが扱う医薬品などはバイオ技術を集結して開発されるいい例ではあるが、基幹産業と言うには自動車産業などに比べれば小さい存在であろう。農業は総合的な市場としては非常に大きい産業ではあるが、基幹産業を形成する会社組織として存在していない。マクロ的な視点で地球全体のこれからを考えた場合に、世界の人口を支える食糧生産に関わる産業こそがバイオ技術で支えるべき対象であるが、ここにも基幹産業としての実態はまだ存在しない。「食の新潟国際賞」が食糧生産の明るい未来を目指す研究を評価し、その研究が食に関わる基幹産業を作り出す原動力となることであれば将来の食糧問題の解決に光が見える。

  では、食産業の基幹産業としてのイメージとはどのようなものか?その一つの答えは植物工場などのような、人工環境による食の大規模生産であろう。古代、人口が少ない時代にあっては自然環境に左右されながらも生産される数少ない作物によって胃袋を満たすことが可能であったが、これからの時代にあっては自然任せの生産だけでは全人口を支えることは量的に不可能である。科学技術を駆使して組み換え食品を推進しようという話ではなく、食の安定生産に向けたビックバンが必要な時代となっていることを考えると、前述のような食品生産をリードする新たな産業形体が必要なのかもしれない。バイオテクノロジーという分子レベルの世界で研究展開をしていると、生物が持つ機能の追及や新技術開発などの研究に没頭しがちで、ヒトの生命活動の根幹である「食」の重要性を見過ごしてしまう。今一度バイオテクノロジーの社会的貢献を考えると上記のような「基幹産業」を生み出すような研究貢献をしなければと思うのである。

  また、私たち研究チームが頂いた賞のテーマは副菜であるキノコであったが、主食となる穀類の研究への応用ができうるような結果を出すことも使命であると感じている。「食の新潟国際賞」は真剣に世界の食の今後に貢献する研究者らへ発信された素晴らしい賞である。この地球上の生命活動を維持しつつ、環境に配慮し、十分な食糧供給を確保する新技術の創世などに与えられるこの「食の新潟国際賞」は、世界の研究者のモチベーション向上に繋がるもので、真にこれからの世界を見据えた賞である。

  さて、遺伝子情報の活用というと一般的に浸透した話としては遺伝子診断、オーダーメード医療、個人特定など多岐に渡る。しかし農業の面での活用となると、品種判別、品種改良などの用途に限られており、生産体制のシステムに組み込むような利用方法はほとんどない。すなわち、大規模工場生産などの中での生産システム(これが基幹産業へと成長することを望むのであるが)で起こる不良品の排除、適切な生産管理のモニタリング等に遺伝子情報を利用できるシステム構築が将来の食糧確保に必要な技術であると考えている。キノコの工場生産においては遺伝子発現情報を駆使して、前述のコンセプトを達成することが可能であるところまで来た。しかし、主菜である穀類や肉類生産における生産システムに遺伝子情報を組み込むことが達成されて初めて食糧生産の量的確保を安定的にできるのではないかと思われるため、そこに向けた研究開発に私たちの研究結果を反映させることができれば幸いである。

 アスリートやエンターティナーなどに与えられる賞は数知れない。一方で、研究成果に与えられる国際的な賞は数少ない。もっと言うと、食に関する国際的な賞はほとんどないにも関わらず、食に関わる研究を行っている研究者は相当数いる。この「食の新潟国際賞」は食の研究のノーベル賞としての存在感を世界にアピールし研究者たちの目標となる賞へと発展していくことを望んで、さらに研究に没頭したいと思う。


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